高齢出産に対して、残念ながら本能的に気持ち悪いという感覚を覚えてしまう方がいらっしゃることは事実です。もちろん感じ方は千差万別ですし、人生の捉え方や考え方は人それぞれ自由です。
高齢出産を控えている、しようとしている方にとってはシビアな話かもしれませんが、現実を見ることも大切です。
ただ実際に高齢出産に挑もうとしている方が、そうした個々の意見に必要以上振り回されてしまったり、大きな不安を感じてしまったりする必要はありません。
この記事ではなぜそのようなマイナスの感情が抱かれるかを紹介します。
高齢出産をする人は気持ち悪いと思われるような話がある
高齢出産というと大変というイメージの方が多いと思いますが、中には気持ち悪いと思う方がいらっしゃるのも事実です。
高齢出産に対して思うことは人それぞれですが、心無い言葉をネット上に書き込んでいる方もいらっしゃいます。
たとえば授業参観の際に親が高齢で浮いている、マタニティヨガやママさん教室で高齢なのが気持ち悪いなどといった意見がありました。
中には高齢で産むのはエゴで、子どもが可哀想という意見まであるのです。
ただ、近年は晩婚化が進んでおり、医療が進んで不妊治療も昔に比べると進歩しているので、高齢出産に対するネガティブなイメージは少なくなりつつあります。
高齢出産にリスクがあることは事実
高齢出産という言葉はしがちなので、最初に整理しておきましょう。
日本産婦人科学会が定義している内容では、35歳以上の初産婦となっています。
世界産婦人科連合(FIGO)が定義している内容では、同じく35歳以上の初産に加え、経産婦でも40歳以上が該当するとしているのです。
1993年より前は日本産婦人科学会は30歳以上と定義していたところ、そこから5年も先に延びていることがわかります。
その理由は、もちろん社会情勢や経済状況などもありますが、医療機関が技術でカバーできる範囲が広がっていることも含まれるでしょう。
結婚が遅くなればそれに伴い初産も遅くなるのは道理で、高齢出産が増加傾向になるのも至極納得できます。
これも個人個人の感覚に大きく左右されるため一概に言えませんが、確かに30歳で高齢出産に該当するのは早すぎるのではと感じる日本人のほうが、現在では多いでしょう。
ただ、その頃と比べて人間の体の構造が大きく変わっているわけもなく、本来の肉体だけを考えるなら、30歳の前と後では条件が違ってくるのが事実です。
その条件というのが、肉体に関する妊娠・出産の「リスク」です。
高齢出産に対してどうしてもマイナスのイメージを抱いてしまう理由の一つが、このリスクにあります。
以前なら30歳、現在なら35歳の肉体において、妊娠・出産に関してさまざまなリスクが伴うことは、残念ながら事実です。
まずはこのことを正しく理解し、きちんと向き合う意識を持って臨むことが大切だと言えるでしょう。
そうしたリスクに対し、どれだけ対応策を持てるかで高齢出産の捉え方も変わってくるはずです。
年齢に関係なくリスクがあることも事実
そもそも高齢出産に限らず、妊娠・出産にはリスクが伴います。
たとえば、骨盤位(さかご)は、赤ちゃんの頭が上、おしりが骨盤側にある姿勢を指しますが、妊娠34週前後でこの状態に場合は普通分娩はリスクが高くなり、原則帝王切開が推奨されます。
ただ、さかごは意外によくあることであり、早い段階ではあまり心配しなくても自然な回転で直ることも少なくありません。
原因は現在のところ不明で、年齢に関係なくリスクの高い症状です。
逆に、年齢が低いほどリスクが高い結果になってしまうケースもあります。
たとえば、妊娠高血圧腎症(妊娠中に発症する高血圧の一種)や切迫早産、貧血、在胎不当過小(低体重)のリスクの理由の中には、自身の妊娠に気づかない行動が含まれます。
喫煙や飲酒などを行ったり、性感染症にかかるリスクの高い性交を行ったりすることから、母子ともに治療を要する状況になる場合も少なくありません。
高齢かそうでないかよりも、妊娠・出産という大きな人生イベントにはさまざま注意すべき点があることをしっかり認識することが重要だと言えるでしょう。
つわりは年齢に関係する?
結論からすると、高齢妊娠のほうがつわりが強くなるというわけではありません。
実際に、30歳過ぎに第一子を、40歳過ぎに第二子を妊娠した妊婦さんが、第二子の妊娠時のほうがつわりが軽かったという事例もあります。
これは最初の妊娠の経験を活かし、次の出産にうまくつなげることができた例でしょう。
妊婦さんの体調を整えるために重要なのが栄養ですが、炭水化物をメインとしながらタンパク質や脂質、ビタミンやミネラルなどをバランス良く摂取し、母体に必要な栄養が不足しないようにすることが何より大切です。
ちなみに、食べすぎや太りすぎが心配されるのは、糖質を摂りすぎることにリスクがあるためです。
ごはんやパン、麺類などは糖質なので適度に控えつつ、タンパク質を多く含む食品を摂取し、体に必要な栄養をしっかり与えるようにしましょう。
高齢出産による癌リスクの低下について
高齢出産にメリットがあるという研究発表があります。
南カリフォルニア大学の研究では、高齢出産による子宮体癌のリスク低下が述べられました。
(「高齢で分娩した女性は、子宮内膜癌・子宮体癌にかかる危険性が低下した」Setiawan VW et al., Am J Epidemiol. 2012;176:269-78.)
内容は、8,671人の子宮内膜癌患者と16,562人の対象群で比較したところ、最後の分娩年齢が40歳以上だった人が最後の分娩年齢が25歳だった人に比べて子宮内膜癌の発症率が44%低かったというものです。
子宮内膜癌の発症危険因子の中に妊娠・分娩経験がないことが挙げられて久しいですが、この結果は統計学的に遅い出産のメリットについて有意とされています。
高齢出産は合併症が指摘されてハイリスクと言われる反面、世界ではこうした新しい目線での研究も進められています。
また、リスクをしっかり意識するからこそ、より丁寧に体のサインを感じ取り、適切な検診で現状把握ができることもメリットにつながると言えるでしょう。
重要なのは生む前と生んだ後
高齢出産に対してマイナスイメージを持ってしまう理由には、妊娠・出産にまつわる点だけでなく、その後の「子育て」にも関係があります。
年齢に関係なく子育てに日々頭を悩ませる親御さんは大勢いらっしゃいますが、確かに子育てには並のパワーでは足りないのが事実でしょう。
体力的パワーについては、年齢が上なら上なほど前もってしっかり準備し、鍛えておくしかありません。
精神力的パワーについては、人生経験が豊富なほどストレス耐性が高い期待がありますが、こちらもやはりしっかり培い、前もって鍛えておくしかないでしょう。
ただもう一つ必要なパワーに、経済力があります。
こちらに関しては、実は高齢出産のほうがパワーに余裕を持てる期待が高いでしょう。
たとえば、30代は共働きで子どものいない夫婦としてさまざまな趣味を楽しみ、そこから落ちついて子育て生活に入る場合、一般的な現代の若い夫婦よりも経済的余裕を持って子育てができることが多いです。
もちろん、自分たちの老後資金の準備もしなければならないため、子育て資金と両立させる計算が必要なことは忘れてはいけません。
それでもさまざまな人生のバランスが取れているなら、子育てしながらでも十分幸せな生活ができます。
一点あるとすれば、出産までにいくら貯蓄できるかがカギと言えるでしょう。
35歳までに確かな資産形成を行っていれば、高齢出産や子育てに対しても慌てることなく、人生をマネジメントしていけるでしょう。
ちなみに言うまでもありませんが、親の年齢が高いから子どもが可哀想だと決めつけるのも、親にお金がないから可哀想だと決めつけるのも違う話です。
まとめ
高齢出産が気持ち悪いと言ってしまうのは、あまりにも残念で心無い発言です。
もちろん人生の捉え方、考え方は一人ひとり千差万別ですし自由でしょう。
ただそれと同じく、人の数だけ生き方があり、どのような選択をするかはその人次第です。
そういう意味では、「高齢出産」と一口にまとめてしまうことも非常に乱暴です。
医学統計的に言えば、世界でも高齢出産とされる35歳以上の初産には、妊娠・出産に関する健康リスクがあることは事実ですので、それは認識しておきましょう。
また、年齢にかかわらず妊娠・出産には母子ともにリスクがあり、無事出産した後の子育てにも、親御さんにはさまざまなパワーが必要なことも事実です。
そうしたことにすべてきちんと向き合い、しっかり意思を持って臨むなら、きっと大きな幸せに満ちた生活が待っていることでしょう。